公益財団法人特殊無機材料研究所

2019年度事業報告書

2019年4月1日―2020年3月31日

 

炭化ケイ素繊維は、1975年東北大学金属材料研究所の矢島聖使教授とその研究室メンバーにより、出発物質のポリシランから合成される中間生成物のポリカルボシランを溶融紡糸した後、熱酸化不融化工程、焼成工程のプロセス(Yajima Process)により世界で初めて連続繊維として開発され、日本カーボン(株)において「ニカロン」の商品名の繊維として製造販売された。その後、不融化工程が改良され電子線照射架橋反応による不融化工程が開発され、超高温(1500℃以上)においてより優れた特性の繊維が「ハイニカロンータイプS」の商品名においてNGSアドバンストファイバー(株)から「ニカロン」と共に、現在、製造・販売されている。
一方、ポリシランにチタンorジルコニウムorアルミニウムなどの金属アルコキシドとの反応により得られる、それぞれの中間生成物、ポリメタロカルボシラン、を溶融紡糸―熱酸化不融化工程―焼成工程によりそれぞれの金属を含む炭化ケイ素系繊維が宇部興産(株)において開発され、現在、それぞれ、チラノ繊維LoxM、チラノ繊維ZMI,チラノ繊維SAの商品名において製造・販売されている。
最近、欧米では、次世代航空機ジェット・エンジンに不可欠の基幹高温材料として炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素マトリックス複合材料が注目されているが、その強化繊維として炭化ケイ素繊維がgame-changing technologyあるいはcutting edge next generation technologyに位置づけられている。

航空機産業は、今後少なくとも20年間は年率5%以上の成長が見込まれる最も有望なハイテク分野である。特に、グローバル・マーケットの主要部分を占めつつある民間航空機においては、エンジンの安全化、軽量化、高温動作化、低燃料消費化、環境汚染ガス排出低減化、メインテナンス軽減化等が必須の高度化対策と目されている。これらの高度化ニーズを満たすには、エンジン構成材料を従来のニッケル系超合金から炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素マトリックス複合体に切り替える大変革が必要であると考えられている。

このような社会経済的ならびに技術的背景を踏まえて、「既存の炭化ケイ素繊維の安定供給・大量生産技術の確立」そして「炭化ケイ素繊維のさらなる高性能化」を2本柱とするNEDOプロジェクト「軽量耐熱複合材CMC技術開発」が宇部興産(株)を主幹会社として2015年7月から5年計画でスタートしている。当財団は、2019年度において、このNEDOプロジェクトと連携して、「炭化ケイ素繊維のさらなる高性能化に関する基礎的研究開発」ならびに「炭化ケイ素繊維の性能と製造技術に関する国際標準の設定」を事業活動として展開し、併せて関連分野における「研究会等の開催による成果公開、情報交換そして研究促進」を目的としてセミナー、ワークショップならびに研究会を精力的に開催している。

1.炭化ケイ素繊維ならびにその複合成形体の高性能化に関する研究開発
特定費用準備資金の一部を取り崩し、炭化ケイ素繊維ならびにその複合成形体の高性能化に関する下記の4テーマの基礎的研究について2018年度まで行われ、本年度はそれらの研究成果の総括が行われた。(  )は共同研究機関である。

(1)紡糸・不融化・焼成における化学結合の局所変化    (大阪府立大学)

(2)焼成・無機化におけるナノ組織構造の解析  (日本原子力研究開発機構)

(3)有機ポリマー・ルートによるSi-C系ナノ粒子の形成    (愛媛大学)

(4)炭化ケイ素繊維/マトリックス複合体の微細組織    (東京工業大学)

 

グローバル・マーケットは炭化ケイ素繊維による次世代航空機ジェット・エンジンの本格的実用化を2030年と設定しているので、炭化ケイ素繊維とその複合体の抜本的高度化を目指す基礎的研究開発が今後10数年にわたる熾烈な国際競争となるのは必然である。上記の4研究テーマはこの国際的研究競争に打ち勝つためには避けて通れない課題であり、かつ日本の大学・研究機関の中にこれらの基礎的研究を行う拠点を形成し、人材育成を図らなければならない。このような視点に立脚して、公益財団法人特殊無機材料研究所(AIMS)は研究事活動事業を鋭意選択・集中して展開している。特に、強化繊維の安定供給と高性能化は重要である。宇部興産㈱において製造されている、ポリシランとアルミニウムアルコキシドから合成されるポリアルミノカルボシランを溶融紡糸そして、熱酸化不融化工程―焼成工程により製造される商品名、チラノ繊維SAは、強化繊維として特に期待されている。本繊維は炭化ケイ素微結晶を主成分として少量のアルミニウムなどが含まれている。したがって、繊維中のケイ素、炭素、アルミニウムなどの結合状態は繊維の特性と密接に関連している。本年度は、上記4テーマの中において(1)のテーマに関してさらに深く研究するために「超耐熱性炭化ケイ素繊維における局所アモルファス-微結晶構造のX線吸収端微細構造の解析を介した評価」(大阪府立大学)のテーマについて共同研究を行った。その結果、繊維内部および表面の各原子の結合状態が明らかにされた。

 

2.炭化ケイ素繊維ならびに複合成形体の国際標準規格設定に関する活動

炭化ケイ素繊維は世界に先駆けて日本において最初に開発され、工業製品化された正に日本発のオリジナル材料である。最近、宇宙・航空産業を中心として欧米ならびに中国において炭化ケイ素繊維への注目が急速に高まりつつあり、健全なグロ-バル・マーケットの形成が強く求められている。そのために、炭化ケイ素繊維の製法、構造、強度・耐熱性等の諸性質に関する規格を国際的に標準化して、公正かつ透明な競争と選択を可能にしなければならない。公益財団法人特殊無機材料研究所は、創設期からフロント・ランナーとして炭化ケイ素繊維の研究開発に深く携わっており、国際標準規格設定を主導する最適任者として広い視野に立脚して本活動を展開している。
2019年度は、ISOに提出し受理された「CMC強化繊維の試験方法:樹脂含浸ヤーンの引張特性の決定」原案がISO技術委員会で審議されコンセンサスが得られたので、ISO各国のメンバーに配布されコメントを求められた。これに対し2件のコメントがあり回答を行った。しかし、10月中国済南で行われたISO/TC206総会でWG4ワーキンググループ討議が中止になったため、審査が遅れている。
また、韓国より新規提案があった「レーザーアブレーション(LA)+ICPS/MSを使ったSiC繊維の化学分析方法」は反対投票した結果、採用されなかった。

 

3.メソポーラスシリカならびにその複合体の国際標準化の設定

メソポーラスシリカは日本発のオリジナル材料であり、さらに近年触媒、吸着剤、バイオセンサーを中心とした産業応用と量産化がわが国で成功した。そのため、欧米、豪州、アジアでも注目が急速に高まってきたが、工業製品としての品質管理に関しては全く基準が無く、類似粗悪品等流通等により、健全なグローバル・マーケットの発展が阻害されることが」懸念されている。そのため経済産業省・産業技術総合研究所のナノテクノロジー標準化国内委員会の材料規格関連/WG4では「メソポーラスシリカの国際標準化」の提案の準備を2018年度から開始した。
2019年度は財団法人特殊無機材料研究所が主導して、国内委員会の準備、およびISO/TC229 WG  International Meeting への準備と提案を行なった。ナノテクノロジー標準化国内委員会の材料規格関連/WG4においての承認を経て、2019年5月の豪州および2019年11月の中国におけるISO/TC229 WG  International Meetingで提案し、エキスパート登録の承認を得た。この承認に基づき、2020年3月の国内委員会において財団法人特殊無機材料研究所・福嶋理事ほかをエキスパートとすることが認められた。

 

4.研究会等の開催による成果公開、情報交換そして研究促進

(1)セミナーAIMS-2019
日時:2019年5月20日(月) 14:30-16:00
場所:学士会館 301号室(東京都千代田区神田錦町3-28)
講師:亀井 信一 氏(株式会社三菱総合研究所 研究理事 理学博士)
題目:「課題解決をリードし未来を拓くマテリアルの底力」

 

(2)「高信頼性・高耐熱先進材料」講演会
(公益財団法人特殊無機材料研究所と株式会社超高温材料研究センター共催)
日時 : 2019年10 月25日(金) 13:20~16:30
場所 : 株式会社超高温材料研究センター(JUTEM)山口事業所
(山口県宇部市沖宇部573番地の3)
講演題目:「マイクロ引き下げ法による融液成長を利用した材料開発の新展開」
講師:東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)准教授 横田 有為
講演題目:「電気抵抗率を制御できる新しい抵抗体用複合材料の開発」
講師:和久 芳春 (株)超高温材料研究センター技術顧問
東北大学 未来科学技術共同研究センター シニアリサーチ・フェロー
講演題目:「超軽量スポンジ構造Si/SiC多孔質セラミックスの開発
(高効率な3次元光触媒フィルターなどに適用)」
講師:工学博士 谷 英治(元産業技術総合研究所九州センターグループ長)

 

(3)炭化ケイ素繊維高度化プロジェクト・ワークショップ
日時:2019年12月23日(月)13:00~18:00
場所:日本化学会会館会議室501A室。JRお茶の水駅の近く。
講演題目: SiC繊維の構造とその形成過程の研究
講師:鈴谷 賢太郎 日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター
講演題目: 炭化ケイ素系耐熱性繊維の性能向上に関わる技術的要素
講師:成澤 雅紀 大阪府立大学大学院工学研究科
講演題目: 減圧雰囲気下におけるポリカルボシランの簡易合成と無機化
講師:山室 佐益 愛媛大学大学院理工学研究科
講演題目: 炭化ケイ素基繊維強化複合材料及び炭化ケイ素繊維の高度化に向けた革新的界面層形成プロセス、及び炭化ケイ素セラミックスの微構造及び特性に及ぼすAl、B、C元素添加効果に関する研究
講師:吉田 克己 東京工業大学科学技術創成研究院 先導原子力研究所

 

4.理事会

(1)第1回2019年4月26日(月)12:00-15:30
仙台市太白区茂庭台2-6-8公益財団法人特殊無機材料研究所 会議室

議事:
・平成30年度事業報告書(案)の審議ならびに承認
・平成30年度収支決算書(案)の審議ならびに承認
・平成30年度監査報告書の審議ならびに承認
・次期理事候補者案の審議ならびに承認
・次期監事候補者案の審議ならびに承認
・(株)国際文献社事務委託に関する契約等の審議ならびに承認
・定款の一部変更
・セミナーAIMS-2019開催に関する審議ならびに承認

 

(2)第2回2019年5月20日(月)16:00-17:00

開催場所:東京都千代田区神田錦町3-28 学士会館 301号室
議事:
・事務所登記住所変更について
・代表理事および業務執行の選任
代表理事として岡村 清人、および業務執行理事として市川 宏が選定された。

 

(3)第3回 2019年7月30日(火)13:00-15:30
株式会社国際文献社本社4階会議室(東京都新宿区山吹町358-5)
議事:
・新材料研究会からの寄付金受け入れについての審議ならびに承認
・事務所移転、業務引継ぎ状況、内閣府定期提出書類の提出について
・2019年度事業計画における研究助成金の支出について審議ならびに承認

 

(4)第 4 回 2019 年 9 月 27 日(金)13:00-16:00
株式会社国際文献社本社 4 階会議室(東京都新宿区山吹町 358-5)
議事:
・書類の仙台からの引っ越し及び保管場所について審議ならびに承認
・株式会社超高温材料研究センターとの契約(研究契約及び研究員室貸借契約)について審 議ならびに承認
・講演会、将来計画審議委員会の報告
・炭化ケイ素繊維高度化プロジェクト・ワークショップの報告
・大阪府立大学 成澤氏への研究助成金支払いの報告

 

(5)第 5 回 2020 年 1 月 17 日(金)13:30-16:30
株式会社国際文献社本社 4 階会議室(東京都新宿区山吹町 358-5)
議事:
・株式会社超高温材料研究センター(JUTEM)との契約、研究契約と研究員室賃貸借契約に ついて審議ならびに承認
・(株)国際文献社との 2020 年度の業務委託の契約について審議ならびに承認
・2020 年度の事業について審議ならびに承認
・2020 年度評議員会の開催について
・炭化ケイ素繊維高度化プロジェクト報告書の取扱いについて審議ならびに承認
・「高信頼性・高耐熱先進材料」講演会の報告 ・将来計画審議委員会からの報告
・「炭化ケイ素繊維高度化プロジェクト・ワークショップ」報告
・「学振第 124 委員会」について報告
・「証券会社」、「銀行」の支店変更について報告
・韓国貿易センター(以下「KORTA」)からの訪問希望について検討
・2019 年度の決算及び 2020 年度の予算案
・事業計画について報告及び検討

 

(6)第 6 回 2020 年 3 月 13 日(金)13:15-16:30
株式会社国際文献社本社 4 階会議室(東京都新宿区山吹町 358-5)
議事:
・2020 年度(令和 2 年度)事業計画書案、2019 年度事業報告書案について審議ならびに承 認
・2020 年度(令和 2 年度)収支予算書案について審議ならびに承認
・2020 年度定時評議委員会について審議ならびに承認
・内閣府との対応について審議ならびに承認
・旅費の支給方法について審議ならびに承認

 

6.定時評議員会
2019 年度定時評議員会は下記の通り開催した。
開催日時:2019 年 5 月 20 日(月)12:00-14:30
開催場所:学士会館 301 号室(東京都千代田区神田錦町 3-28)
議事:
・2018 年度事業報告書ならびに収支決算書の審議・承認
・同上監査報告書の審議・承認
・監事ならびに理事の選任 事務外部委託に関する契約の審議・承認
・主たる事務所の移動に関する定款変更の審議・承認
・2019 年度事業計画書ならびに収支予算書の報告・承認

 

7. AIMS 将来計画審議委員会
第 1 回委員会 2019 年 10 月 25 日(金)10:00-12:00
株式会社超高温材料研究センター山口事業所 2 階会議室
出席者:(理事)市川 宏、岡村 清人、福嶋 喜章 (評議員)久新 荘一郎、後藤 孝、佐藤 光彦、鈴木 謙爾、山村 武民 (評議員選定委員会委員長)澁谷 昌樹

・若手研究者への研究助成の選考方法(推薦方法、金額、人数、期間等)について審議

 

第 2 回委員会 2019 年 12 月 24 日(火)10:30-12:30
日本化学会化学会館(東京都千代田区神田駿河台 1-5)501A 室
出席者:(理事)岡村 清人、市川 宏、福島 喜章 (評議員)久新 荘一郎、黒田 一幸、後藤 孝、佐藤 光彦、鈴木 謙爾 (評議員選定委員)渋谷 昌樹
・研究助成の選考方法および候補者の決定に関わる別途委員会を設置について審議
・役員(理事)の若返りなどに関して検討

 

8.事業報告の附属明細書
2019 年度事業報告には、事業報告の内容を補足する重要な事項が存在しないため、附属明 細書を作成しない。

以上