2021年度事業報告書
公益財団法人特殊無機材料研究所(AIMS)は、有機―無機変換の新しい方法による特殊無機材料の開発に関する研究・調査を行い、あわせてこれらに関する研究を助成し、特殊無機材料の学術の発展に寄与することを目的としている。2020 年度に引き続いて2021 年度においても、有機ケイ素ポリマーを前駆体とする炭化ケイ素繊維の合成、それらの繊維を用いた繊維強化セラミックス複合材料の研究、ならびに関連する有機―無機変換による新しい特殊無機材料の研究開発に関して、下記の項目の公益目的事業を行った。
(1)有機―無機変換による炭化ケイ素繊維の研究開発、及び繊維の特性評価に関する研究。
(2)繊維強化セラミックス複合材料の高性能化に関する研究開発
(3)有機―無機変換による特殊無機材料の研究開発
(4)有機物、無機物の特徴を生かしたハイブリッド材料の研究開発
(5)炭化ケイ素繊維、及びその繊維強化複合材料の国際標準規格の設定
(6)講演会・研究会等の開催による成果公開、情報交換そして研究促進
(7)その他(定款第4条に規定する事業)
上記のそれぞれの事業項目について以下に報告する。
(1)有機―無機変換による炭化ケイ素繊維の研究開発、及び繊維の特性評価に関する研究
安全、省エネルギー、環境保全を目指す次世代航空機ジェット・エンジンの基幹高温部
材として、最近、炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素複合材料(SiC/SiC)が注目を集めてい
る。SiC/SiC 部材が、適用されたジェット・エンジンを2030 年までに実用化して本格的
にマーケットに投入するには、現有の素材である炭化ケイ素繊維の性能の高度化および
信頼性のさらなる向上が必要である。このためには、繊維の製造工程における、出発物質
の新しい有機ケイ素ポリマーの合成、溶融紡糸、不融化工程、焼成工程、そして製造された炭化ケイ素繊維の化学組成、微細組織構造、純度等の諸因子と強度等の特性の関係を精密に解析する必要がある。
当財団では、「有機―無機変換による特殊無機材料の研究開発、特に炭化ケイ素繊維の高性能化、及びその繊維を強化材とするセラミックス複合材料」の研究事業活動を行っている。平成27年度(2015年度)から平成31年度・令和元年度(2019年度)までの5年間、大学および各研究機関における研究助成活動を行ってきた。その成果として、「炭化ケイ素繊維高度化プロジェクト」と題する小冊子を発刊した。
その各々の研究成果において、米国化学会発行の”Organometallics”に投稿された、久新 荘一郎 教授の、題名”Oxygen-Free Poly(dimethylsilyene) for Next-Generation SiC Fibers”の論文が、当雑誌の2020年12月28日の表紙に掲載され、以下のように紹介された。「近年、SiC/SiCセラミックマトリックスコンポジット(CMC)が高性能航空機エンジンの主要部品として採用されているため、炭化ケイ素繊維が注目を集めています。出発物質として無酸素ポリ(ジメチルシレン)を用いて性能を向上させることが期待されます。この研究では、無酸素ポリ(ジメチルシレン)の合成と特性評価が発表されています。」
(本件は当財団のホームページ、
本論文の内容は、当財団の研究助成事業に即した研究であるため、2021年度、新たに、出発物質の新しい無酸素ポリシランを用いて得られるポリカルボシランの溶融紡糸の研究に対する研究助成(①)、および、現在市販されている最高級のSiC繊維の特性評価の研究に関して研究助成(②)を行い、その研究報告を以下に示す。
(1)-① 有機ケイ素ポリマーの紡糸における溶融紡糸条件の研究
無酸素ポリ(ジメチルシリレン)と従来の含酸素ポリ(ジメチルシリレン)を用いてポリカルボシランを合成し、酸素の有無をどのように検出するか検討した。ポリカルボシランはポリ(ジメチルシリレン)を400~450 ºCに加熱して蒸留する方法またはオートクレーブ中で400~500 ºCに加熱する方法で合成し、GPCの分子量分布と赤外スペクトルデータが市川 宏博士の学位論文のデータと一致することを確認した。ポリカルボシランの1H NMRスペクトルを測定し、各シグナルの帰属を行った。特に、含酸素ポリ(ジメチルシリレン)を用いた場合は、3.3 ppmにSiOMe構造に由来するシグナルがはっきりと観測され(0.47%)、無酸素ポリ(ジメチルシリレン)の場合ではそのシグナルがほとんど消失することが確認された(0.074%)。そのため、ポリカルボシラン中の酸素を検出する方法が確立し、また無酸素ポリカルボシランを合成できることがわかった。現在、酸素含有量をさらに低下させるための検討を行っている。またこの研究と並行して、紡糸機の発注を行った。現在、組み立てがほぼ終わり、巻き取り機が納入されて試運転をすれば、紡糸操作に入ることができる。
(1)―② 繊維径の分布を考慮したSiC繊維の強度分布モデルの構築
ISO (国際標準化機構)19630: 2017等で規定されている単繊維引張り試験は最も基本的な繊維強度の評価方向であるが、試験片の取り扱いが困難であり、準備作業に手間を要する上に、多くのサンプル数が必要である。また、SiC繊維等では直径のばらつきが顕著であることから、引張り試験前に各試験片の繊維単体の直径を実測することも必要とされる。これに対して、ISO 22459: 2020で規定されている繊維束引張り試験では、1回の試験で多くの繊維強度データを取得できるため効率的である。実験の諸条件に注意すれば、繊維束引張り試験手法によって効率的にSiC繊維の強度分布を評価できることが期待される。しかしながら、単繊維引張り試験と繊維束引張り試験から推定されるそれぞれのワイブルパラメータの相関について、直接的な比較調査を行った研究はこれまで全く報告されていない。
そこで本研究では、単繊維引張り試験と繊維束引張り試験から推定されるワイブルパラメータの相関を実験的に調査することを目的とし、5種類のSiC繊維(Nicalon、Hi-Nicalon、Hi-Nicalon TypeS、Tyranno ZMI、Tyranno SA)を対象に、単繊維引張り試験ならびに繊維束引張り試験をそれぞれ実施した。単繊維引張り試験の結果、SiC繊維の直径のばらつきはガウス分布で近似可能であることが示された。繊維の直径が大きくなると強度がゆるやかに低下する傾向が認められ、体積効果が発現している可能性が示唆された。繊維束引張り試験結果で得られた荷重―変位線図から推定された形状母数(m)は、単繊維引張り試験結果と比較して高い値となる傾向が認められた。一方、尺度母数(σ0)については、単繊維引張り試験および繊維束引張り試験ともに概ね近い値が得られた。更に繊維束引張り試験では、個々の繊維の繊維径を考慮しなくても概ね妥当なワイブル尺度母数(σ0)が得られることをモンテカルロシミュレーションによって検証した。
論文: Yoshito Ikarashi, Toshio Ogasawara, Shin-ichi Okuizumi, Takuya Aoki, Ian J. Davies, Jacques Lamon, Direct comparison between monofilament and multifilament tow testing for evaluating the tensile strength distribution of SiC fibers, Journal of the European Ceramic Society, 42[5], May 2022, Pages 1928-1937.
(2)繊維強化セラミックス複合材料の高性能化に関する研究開発
次の研究助成のテーマとして、現在、日本において高性能SiC繊維として、Hi-Nicalon Type S繊維、及び、高温タイプのチラノSA繊維が製造・販売されている。これらの高性能繊維を強化材としてSiC繊維強化セラミックス複合材料が作製されており、さらにそれぞれの性能評価の研究が行われている。当財団では、以下の2件の研究について、研究助成を行い、その研究成果に関して報告する。
(2)―① 電気泳動堆積(EPD)法により形成した窒化ホウ素界面層がSiCf/SiC複合材料の機械的特性に及ぼす影響
炭化ケイ素繊維強化炭化ケイ素基(SiCf/SiC)複合材料は,優れた損傷許容性を有する高信頼性耐熱材料として,航空宇宙産業や原子力・核融合炉分野においてキーマテリアルとされている.繊維/マトリックス界面は優れた機械的特性を発現させるために極めて重要な役割を担っており,繊維表面に最適な界面層を形成し,最適な界面制御することが高性能SiCf/SiC複合材料の実現の鍵となる.本研究グループでは,これまでに高性能SiCf/SiC複合材料の創製を目指し,SiCf/SiC複合材料の強化材となるSiC繊維に対して電気泳動堆積(EPD)を用いた電気化学的手法による革新的界面層形成プロセスの開発を行っている.本研究では,SiCf/SiC複合材料の界面層物質として六方晶窒化ホウ素(h-BN)を候補材とし,電気泳動堆積(EPD)法を用いた界面層形成プロセスの確立及び高性能SiCf/SiC複合材料の界面層設計指針の導出・提案を目的とし,2021年度はEPD法による界面層形成プロセス条件の検討,SiCf/SiC複合材料の機械的特性及び界面特性を評価した.
EPD法による界面層形成プロセス条件について,BN粒子懸濁液のBN濃度及びEPD電圧について検討した.本研究では,結晶質SiC繊維(Hi-Nicalon TypeS)を用いた.テフロン製治具に繊維束を一方向に並べてSiC繊維プリフォームを作製した後,繊維表面に導電性ポリマーであるポリピロールを薄く被覆し,繊維表面に導電性を付与した.作製したSiC繊維プリフォームと湿式ジェットミルにより薄片化したBN粒子水系懸濁液(BN濃度0.1〜1.0 wt%)を用いて,泳動時間1時間,印加電圧3〜8 Vの条件でEPDを行った.その結果,BN濃度0.5 wt%,印加電圧5 Vの条件で,SiC繊維に緻密にBN粒子が堆積することを明らかにした.
SiCf/SiC複合材料の機械的特性及び界面特性については,SiC繊維束1束(SiC繊維500本/束)から成るバンドルSiCf/SiC複合材料を作製し,引張試験による引張強度及び破壊挙動の評価,ナノインデンターを用いたプッシュアウト試験による界面せん断強度の評価を行った.バンドルSiCf/SiC複合材料はポリマー溶融含浸-熱分解(PIP)法により作製した.得られた複合材料のかさ密度は2.40 g/cm3,開気孔率は11 %,直径およそ0.6 mm,繊維含有率は32 %であった.
室温での引張試験の結果,界面層のないバンドルSiCf/SiC複合材料は脆性破壊したが,BN界面層を有するバンドルSiCf/SiC複合材料は擬塑性破壊挙動を示し,その最大強度はおよそ180 MPa,破断ひずみは0.30 %であった.また,プッシュアウト試験による界面せん断強度の評価を行ったところ,界面層のないSiCf/SiC複合材料の界面せん断強度は219 ± 128 MPaであり高い値を示したが,BN界面層を有するSiCf/SiC複合材料では,33 ± 12 MPaであり,低い値を示した.以上の結果から,EPD法により形成したBN界面層がSiCf/SiC複合材料の機械的特性の向上に有効であることを明らかにし,界面力学特性がSiCf/SiC複合材料の機械的特性に及ぼす影響について明らかにした.
(2)―② SA チラノヘックスの繊維境界部および内部の透過型電子顕微鏡による解析
尾崎 友厚
○背景
SAチラノヘックス®(以下®は省略)はSiC系繊維強化セラミックス(CMC)の中でも特に耐熱性に優れ、高い破壊靱性を有することから、航空機エンジン部材や発電用タービン部材などの燃焼器部品への適用が期待されている。SAチラノヘックスは、SAチラノ繊維®(同様に®は省略)の繻子織物をホットプレスすることで製造された緻密な繊維焼結型セラミックスであり、その焼結過程で六角形断面の微結晶SiC繊維、及びその繊維界面の境界炭素層等が形成される。緻密に焼結された繊維の微細組織構造と境界炭素層などによるSiC繊維間の強固な結合がCMCの中でも突出した熱伝導率や高い高温強度に寄与していると考えられるが、チラノ繊維を緻密に焼結できる条件やSiC繊維間を強固に結合する境界炭素層の形成条件は明らかになっていない。そこで、SAチラノヘックスについて、SiC繊維の緻密な焼結構造が得ることができ、さらに、強固な境界炭素層が形成されるメカニズムについて明らかにするため、透過型電子顕微鏡(TEM/STEM)を用いた繊維境界の詳細な解析を実施する。
○成果報告
SiC繊維結合型セラミックスであるSAチラノヘックス、チラノヘックスは微量添加元素としてAlもしくはTi元素が含まれており、Alが含まれるSAチラノヘックスはSiC繊維の焼結が進行することで微細組織や高温強度特性がチラノヘックスと大きく異なっている。2021年度は微量添加元素が焼結組織に与える影響について調べるため、集束イオンビーム(FIB)装置により作製した薄片試料を用いて、STEM-EDS(エネルギー分散型-走査型電子顕微鏡)法により、繊維境界近傍での微量添加元素の偏析状態について調査した。STEM-EDSによる元素マッピングの結果、チラノヘックスではTi元素がTiC粒子として凝集して存在する様子が観察された。一方、SAチラノヘックスでは繊維境界、繊維内部を問わず顕著なAlの偏析は観察されなかった。そこで、SA-チラノヘックスについてSTEM-EDS線分析による詳細な解析を実施した結果、繊維内の一部のSiC粒界にAlが偏析する傾向があることが明らかとなった。この結果から偏析したAlが焼結助剤のような役割を粒界で担っていると推測される。
(3) 有機―無機変換による特殊無機材料の研究開発に関して、SiC繊維関連の研究を主に紹介してきたが、SiCナノ多孔体などの特殊無機材料の研究開発も行われている。その研究成果に関して以下に報告する。
(3)-① 有機-無機変換により作製されたSiCナノ多孔体の熱安定性
【研究目的】従来の含酸素ポリ(ジメチルシリレン)から合成されたポリカルボシラン(PCS)を真空中で高温焼成することにより,ポーラス状の炭化ケイ素ナノ構造体(以下、SiCナノ多孔体)の形成が可能であることを報告してきた.R3年度は,このナノ多孔体の高温環境下での応用を想定して,当該物質を大気中で高温加熱した場合の熱安定性について調べた.また、これまでの研究により,SiCナノ多孔体中には原料物質に由来する余剰炭素が残存していることが示唆されている.そこで,大気中で高温加熱することによる余剰炭素の除去効果についても検討した.
【結果】 SiCナノ多孔体の熱安定性について調べるため,500~800℃の温度域でSiCナノ多孔体試料を大気中加熱した後,走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った.その結果,500℃加熱では多孔質形状が比較的維持されるものの,600℃以上の高温域で急速に多孔質形状が劣化・消失することが判明した.また,SEMに搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)を用いて炭素原子の含有率(炭素含有率)を測定したところ,500℃加熱では加熱時間の増大とともに僅かに漸減する程度であったが、600℃以上では加熱時間ととともに急激に炭素量が減少することがわかった.残留炭素が大気中の酸素により酸化・燃焼し,除去されたことによるものと考えられる.以上の結果をもとに,2020年12月に出願した特許(特願2020-209637「炭化ケイ素多孔体及びその製造方法」)を包括的に補強するため,国内優先権主張出願を追加で実施した [1].
また,平成27年12月~平成28年9月の研究課題「有機-無機変換を利用した炭化ケイ素材料の創製に関する研究」において実施したマイクロ波加熱による炭化ケイ素合成の研究成果をもとに,学会誌に論文投稿し採録された [2].
【発表】
[1]国内優先権主張出願
発明名称:「炭化ケイ素多孔体及びその製造方法」
出願番号:特願2021-204753
発明者:山室佐益,宮脇一
[2]論文発表
題目:シリコン粉末のマイクロ波加熱における炭化挙動
著者:山室佐益,鈴木啓吾,宮脇一,高杉僚,萬ヶ原亘希,田中寿郎
掲載誌:粉体および粉末冶金, Vol 68, No 8, 324-334 (2021).
(3)-② 当財団(AIMS)は、2021年度初頭に事務所を、株式会社超高温材料研究センター(JUTEM)に移転し、それまでの研究助成事業に加えて、AIMS自身、もしくは企業との共同での研究開発事業を開始した。2021年度の主な研究成果は以下の通りである。
a)処理時間退縮、熱伝導度向上を目的としたポリマー含侵焼成法(PIP法)の改良(JUTEMへの技術指導を通じ実施)
SiCフィラーの最適化等を進め、マトリックスの熱伝導率を30%程度向上せることができた。処理時間を短縮させるためには、ポリマー自体を改良しなければ難しいことが明らかにされた。
b)ポリカルボシランをベースとした耐熱塗料、接着剤の耐アルカリ性改善(YSテック株式会社と共同開発)
従来のチタン含有カルボシランに変えて、アルミニウム含有カルボシランからワニスを試作し評価した。耐熱性、耐アルカリ性とも改善は見られなかったが、ある程度問題は明らかになり、今後改善を行う予定。
c)炭化ケイ素セラミックス(繊維加工品、多孔体)による加熱炉用省エネルギー材料の開発、評価(新潟ファーネス工業株式会社、株式会社伏見製薬所と共同)
SiCハニカム2枚でSiC繊維フェルトを挟んだものを、図1に示すようにガス加熱炉の出口に取付け、一定条件で運転した際のガス使用量の変化を調べたところ、5%程度の削減率が得られた。また、昇温時間が20%程度短縮した。小さなサイズの試料でこのような効果が得られたため、さらに検討を続けることになった。
(4)当財団では、有機―無機変換によるSiC系繊維やその複合材料だけでなく、有機物、無機物の特徴を生かしたハイブリッド材料の研究にも注目している。2020年度に続いて2021年度においても、「表面制御を行った単層ナノシートを用いたハイブリッド材料の研究作製とその物性評価」と題する研究に助成を行った。その研究成果を報告する。
題目:表面制御を行った単相ナノシートと二層型ナノシートを用いたハイブリッド材料の作製とその物性評価
概要:ナノシートは、一原子から数原子の厚みを持つ一方、面に平行な方向ではサブミクロンからミクロンオーダーのサイズを有することから、極めて異方性の高い材料として様々な応用が試みられている。中でも、クレイ-ナイロンハイブリッド材料に代表される、高分子とナノシートの複合化によるハイブリッド材料は、これまで盛んに研究が行われてきた。ナノシート/高分子ハイブリッド材料では、ナノシートマトリクス中での分散性、ナノシートの強度、ナノシートと高分子マトリクスの相互作用など、複数の要因が機械的性質を決めている。そこで、ナノシートの強度やナノシート表面と高分子マトリクスの相互作用がハイブリッド材料の強度に与える影響を検討することにより、ハイブリッド材料の設計に重要な指針が得られると期待できる。
研究成果:申請者らは層状ニオブ酸塩K4Nb6O17・3H2Oが反応性の異なる2つの層間(層間I・層間II)が交互に存在する特殊な構造を有することに着目し、反応性の高い層間Iだけに有機アンモニウムイオンを導入し層間化合物を形成させた後、フェニルホスホン酸をグラフトさせ、これを有機溶媒中で超音波処理することにより、表面にフェニルホスホン酸基を有する二層ナノシートを作製した。一方、層間Iと層間IIの両方に有機アンモニウムイオンを導入した層間化合物を中間体として両方の層間でフェニルホスホン酸のグラフト反応を進行させた後剥離させると、同様の表面状態の単相ナノシートが作製できた [1]。
ナノシートの多くは単層であり、制御した枚数の層からなるナノシートの作製は、非常に困難である。研究代表者らは、層状六ニオブ酸カリウムが二種類の反応性の異なる層間(高反応性の層間Iと低反応性の層間II)を有し、これら二種の層間が積層方向に対して交互に出現することを利用し、二層構造のナノシートを作製することに成功している(Langmuir, 30, 1169 (2014))。そこで本研究では、二層構造のナノシートの層間に酸分解性を有するポリマーネットワークを固定化した。まず層間Iに原子移動ラジカル重合の開始基を固定し、これを基点として、N-イソプロピルアクリルアミドと酸により加水分解される架橋剤を共重合し、ポリマーネットワーク形成させた。次に層間IIのカリウムイオンをテトラブチルアンモニウムイオンでイオン交換し、超音波処理により二層構造ナノシートを作製した。これをp H=4の水溶液に分散したところ、ポリマーネットワークの加水分解が進行し、単層構造のナノシートが得られた。以上の結果から、二層ナノシートの層間に薬物を担持する事によりドラッグデリバリーシステムへの応用が考えられる。
(5)炭化ケイ素繊維、及びその繊維強化複合材料の国際標準規格の設定
炭化ケイ素繊維ならびに複合成形体の国際標準規格設定に関する活動
炭化ケイ素繊維は世界に先駆けて日本において最初に開発され、工業製品化された正に日本発のオリジナル材料である。最近、宇宙・航空産業を中心として欧米ならびに中国において炭化ケイ素繊維への注目が急速に高まりつつあり、健全なグロ-バル・マーケットの形成が強く求められている。そのために、炭化ケイ素繊維の製法、構造、強度・耐熱性等の諸性質に関する規格を国際的に標準化して、公正かつ透明な競争と選択を可能にしなければならない。公益財団法人特殊無機材料研究所は、創設期からフロント・ランナーとして炭化ケイ素繊維の研究開発に深く携わっており、国際標準規格設定を主導する最適任者として広い視野に立脚して本活動を展開している。
2021年度は、「CMC強化繊維の試験方法:樹脂含浸ヤーンの引張特性の決定」原案がDIS24046としてISO/TC206へ6月2日に提案され、10月28日までの間DIS(国際規格原案)投票に付された。その結果、Pメンバーの全員から承認された。DIS投票後にISOおよびフランスから多くのコメントが寄せられたので、コメントに対する原稿修正を行い、2022年2月14日にISO事務局に送付した。修正案はFDIS(最終国際規格原案)投票が行われ承認されればISO規格となる。
(6)講演会・研究会等の開催による成果公開、情報交換そして研究促進
研究会及びセミナーの開催を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言、および、まん延防止等重点処置が発出されたことから、5月、6月における研究会の開催を中止とした。比較的感染状況が収まった11月に下記の講演会を開催した。
以下に講演会の状況を示す。
・「先進・機能性材料」講演会
(公益財団法人特殊無機材料研究所・株式会社超高温材料研究センター共催)
開催日時 2021年11月24日(水) 13:20~16:30
開催場所 株式会社超高温材料研究センター山口事業所 大会議室(2階)(〒755-0001 山口県宇部市大字沖宇部573番地3)
本講演会は新型コロナウイルス感染予防対策(以下に記載)を実施した上で、現地開催およびWEB配信(Microsoft Teamsを使用)を併用する形式にて開催した。なお、本講演会については当法人および共催企業の両HPに掲載した。新型コロナウィルス感染予防をさらに徹底するために、事前に各参加者に以下2点を通知し、了解を得た
・新型コロナウィルス感染状況次第では、Web配信のみとさせて頂くこともございます.その際には、事前にご案内いたします。
・新型コロナウィルス感染予防対策として、入場前の検温にご協力下さい。37.5℃以上の場合、入場を断りしますので予めご了承下さい.
参加者:講師(3名)、出席者(24名)
プログラム
(1)13:20~13:25 講演会開催の挨拶
(2)13:25~14:25
講演題目:「無機有機複合系の化学とナノ空間物質への展開」
講 師: 早稲田大学理工学術院 名誉教授 黒田 一幸
(3)14:25~14:35 休 憩
(4)14:35~15:15
講演題目 :「高温高圧処理を用いたシリカガラスの超低損失化とガラス構造」
講 師:北海道大学電子科学研究所准教授・AGC(株)技術本部 材料融合研究所
主幹研究員 小野 円佳
(5)15:15~15:55
講演題目:「シリコン系LIB負極材料の開発 ~JUTEMでの取り組み~」
講 師:信越化学工業株式会社 群馬事業所 生産技術部 中西鉄雄
(6)16:00~16:30
株式会社超高温材料研究センター見学会講演会終了後、同会議室にて懇談会(17:00~18:00)が開催され、講師と出席者は、感染予防戴対策の下にて、研究成果に関して、活発な意見交換が行われた。有意義な講演会であった。
(7)その他
・将来計画審議委員会
財団の主な事業として、若手研究者への研究助成が重要であり、その選考方法などの
審議を行う。また今後は本法人でも研究所として独自の研究開発を他の大学・企業と連携
して進める。他その他役員の若返りに関しても審議を行う。
日時:2021年11月25日(木曜)10:00~12:00
場所:(株)超高温材料研究センター・山口事業所 中会議室(山口県宇部市)
出席者:天野 忠昭、市川 宏、梅澤 正信、岡村 清人、久新 荘一郎、澁谷 昌樹、鈴木 謙爾、高山 義弘、山村 武民
内容:
①第3回理事会承認事項の説明(配布資料:2021年度第3回理事会 議事録)
・2021年4月から(株)超高温材料研究センター・山口事業所(JUTEM山口)の一室を借りて事務局を置き、研究推進の拠点とした。
・書類作成等の事務処理作業は、引き続き国際文献社に委託する。
・2021年3月一杯で福島氏が理事を任期満了により退任。
・2021年3月一杯で市川氏が理事を任期満了により退任し、同年4月から特別研究員に就任。
・2021年4月から、高山氏((財)生産開発科学研究所)、山岡氏(宇部興産(株))の両氏が理事に就任。
・群馬大・久新教授に研究推進のための追加の研究助成を行う。(配布資料:久新教授の既発表文献)
・研究推進を目的としてJUTEM山口所有の設備を利用するため、JUTEM山口と契約を締結。
②久新教授の無酸素ポリシランからポリカルボシランの合成研究の発表。(配布資料:pptコピー)
配布資料を使用して研究進捗状況の説明があった。
③AIMSにおける今後の事業・研究展開について鈴木謙爾先生の御提案
【鈴木先生の提案】
(AIMS運営について) 本来の財団運営は、所有財産を運用し、その運用益を財源として進める事が求められる。リーマンショック以降の低金利の金融市場の状況では、株式等への投資が認められていない公益財団の運用財源の確保は非常に厳しい。国内外の企業の研究コラボを実施し、寄付を募るのも一案であるが、すぐにコラボ案件が見つかるわけではない。多くの財団は比較的大きな企業が後ろ盾になっているため運用財源は幾らか余裕があるが、AIMSは単独組織のため運用財源の確保を真剣に検討する必要がある。
(AIMS役員の人材確保について) AIMSの役員は、定款で無給となっている。 現役員は、AIMS創立者である矢島聖使先生と何らかの関わりがあり、AIMS 創立経緯もある程度理解しているため無給で対応してきたが、年齢的に限界に来ており、早急に世代交代にむけて動き出す必要がある。しかしながら、果たして無給で役員を引き受けてくれる若手が現れるであろうか?後継人材について、早急に方向性を出す必要がある。
(AIMSが推進する研究について) 短期的には、現在進めている無酸素ポリシラン等のテーマで良いが、中長期的には、どのような方向で、どのように進めてゆくのか。これまでSiC繊維をキーワードで進めてきたが、今後は、もっと窓口を広げる必要がある。
【各委員の討議内容】
(AIMS運営について)
・資金が少なく独自研究の実績もない。これまでのやり方を進め、若い人たちにも積極的に情報発信して、興味を持った研究者に、出来る範囲で研究助成する事を続けてはどうか。
(AIMS役員の人材確保について)
・現役員の高齢化が進み、新役員となる人材確保が急務。中期的には、研究を積極的に推進出来る若手人材の確保が望まれる。
・AIMSの定款では、役員は無給となっているが、今後、全くのボランティアで役員を引き受けてくれる人材を見つけるのは極めて困難。定款の一部を変更して、役員にもある程度の報酬を出せるようにしてはどうか。
・AIMS程度の資金で、報酬を支払って続けられますか?
(AIMSが推進する研究について)
・研究テーマについては、ケイ素化学といった領域まで広げても良いのではないか。
【各委員の討議を踏まえた上での直近の対応について】
・次回の審議委員会(2022年1月~3月に開催予定)で、次期理事を決めることとする。それまでに、各委員には次期理事の候補を考えておいていただくこととする。
④来年度の研究助成候補者について
来年度の研究助成候補者は、次の通り。
群馬大学・久新教授(奨学寄付)、愛媛大学・山室教授(研究助成)、東京農工大学・小笠原教授(研究助成)、早稲田大学・菅原教授(研究助成)、東京工業大学・吉田准教授(研究助成)
⑤その他
特になし